今でこそ特許制度が当たり前になっている日本。
日本における特許制度の歴史は、実は江戸時代にまで遡ります。
特許制度のなかった江戸時代
江戸時代には、今のような特許制度はありませんでした。
地方の特産品や特産品を製造する技術は門外不出として保護は行われていたものの
保護の方法が門外不出であったために、各地に広く伝わることはありませんでした。
そして一度技術が他人に知られて模倣されても取り締まる法令がなく
泣き寝入りをするしかありません。
優れた技術が秘匿され、新しい技術を元にして産業が発展する機会もほとんどありませんでした。
きっかけは明治維新後のヨーロッパ視察
そんな日本で特許制度導入の機運が高まったのは、明治維新以降でした。
1861年のヨーロッパ視察に赴いた福沢諭吉は、ヨーロッパの技術発展に特許制度が貢献していると著書「西洋事情」に記します。
「世に新発明のことあらば、これよりて人間の洪益をなすことを挙げて言うべからず。ゆえに有益の物を発見したる者へは、
官府より国法をもって若干の時限を定め、この間は発明によりて得るところの利潤を独りその発明者に付与し、もって人心を鼓舞する一助となせり。」
(西洋事情より)
(意訳)
新しい発明は利益をもたらします。発明した人に権利を認める法律を作り、一定の期間発明者が利潤をえられるようにしましょう。
発明が儲かるとなれば人々はどんどん発明をするようになるでしょう。
新発明とその発明者を保護することが、国の発展につながると著書の中で説明しています。
福沢諭吉の他にも神田孝平など多くの人々の運動により、日本に特許制度を導入する流れができあがりました。
国内の利益を守ることはもちろん、海外の進んだ技術を取り入れた際の利益をどう守っていくかなど
海外交易を再開したばかりの日本には法整備が不可欠だったこともあり
政府は1871年に専売略規則を布告します。
これが日本で最初の特許法です。
たった1年で廃止した専売略規則
ようやく導入された専売略規則ですが、残念ながら機能を発揮することができずに、布告からたった1年で執行停止となります。
・まったく新しい制度のため、特許審査に適した人材の確保ができなかった
・海外の専門家を招致する予算がなかった
こうした理由から残念ながら執行停止となったようです。
停止にはなったものの、各府県への届け出は受理されていました。
特許制度ないままの技術推進 乱れる産業秩序
諸外国に並ぶ国家を目指し、政府主導で欧米の最先端技術が導入され多くの官営工場が作られるようになります。
官営としてスタートした工場はやがて民間に払い下げらて市場競争の中で発展していきます。
万国博覧会への参加で海外の技術動向を調査し、国内でも内国勧業博覧会を開催するなど国産技術のアピールも行いました。
しかし、先の専売略制度が停止となり、広まった技術を守る法整備が出来上がっていませんでした。
産業秩序は乱れ、粗悪な製品が出回り輸出品の品質が低下し、貿易への支障をももたらしました。
また、海外から導入した技術が保護されず好き勝手に模倣されるとなると、外国にとって日本の市場は不利で不平等なものとなるでしょう。
こうして模倣品、偽ブランド品の出回りにより様々な分野で混乱が生じることとなります。
ようやく公布 専売特許条例
粗悪品や模倣品が出回るような状態では、安心して製品を発表することもできません。
産業発展の妨げになる粗悪品・模倣品を取り締まる特許制度を求める声が次第に高まっていきました。
当時の農商務省の前田正名と加藤是清の尽力により、1884年には商標条例が、翌年1885年には専売特許条例が公布されました。
1888年と少し遅れて意匠条例も公布され、特許権・意匠権・商標権が確立されました。
このときようやく日本国内における産業財産権に関する法制度が整ってきました。
特許制度導入により、日本国内の発明家の創作意欲をかきたてることになります。
もし特許制度がなかったらと思うと・・・
専売特許条例が公布されたことで、日本はパリ条約に加盟を求められました。
パリ条約は産業財産権において内外人を平等に扱おうという考えが世界規模に発展したものです。
日本の専売特許条例もまた、外国人は対象外だったのです。
このパリ条約への加盟と近代法の制定を前提条件として、治外法権の撤廃や一部関税の自主権の回復など
日本が苦しめられていた不平等条約の改正へと至ることができました。
こうした経緯を考えると、特許制度がもしなかったとしたら現在の日本はどうなっていたでしょうか。
技術の発展はもちろん、外交でも非常に不利な状態にあったかもしれません。
店頭に並んでいる商品も、偽物だらけで粗悪品ばかりだったかもしれません。
一度はとん挫した特許法の制定ですが、こうして人々が力を尽くして制定されたことで、今の日本があるのだと思います。
発明品と発明者を守る法制度が、いかに重要であるかを、記事を書きながら再確認できました。
◇参考文献◇
知的財産教育用副読本 「特許から見た産業発展史」 企画:経済産業省 特許庁 発行:独立行政法人 工業所有権情報・研修館(人材育成部)
知的財産教育用副読本 「アイデア、活かそう未来へ」 企画:経済産業省 特許庁 発行:独立行政法人 工業所有権情報・研修館(人材育成部)
記事担当:佐々木 紗野(ささき さや)
株式会社ニテコ図研3年目社員。芸術系大学卒で芸術・デザイン関係への関心が高い。会社内ではWEB・教育事業・意匠写真を主に担当している。思ったことをすぐ口にするタイプのため独り言が多く反省中。
趣味はサイクリング。
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